岩手県・八幡平市 安比高原 ― グランドマザー・ツリー
この森を最初に訪れたのは春。やわらかな緑が芽吹き、森全体に静かな命の息吹が広がる中で、ひときわ悠然と佇む木がありました。
そして今回、秋の光と風に包まれて再び同じ場所を訪れました。森の葉は下の方はまだ緑ですが、上の方は黄色く色づき、秋の深まりを感じさせます。
幹はほとんど朽ち、根元は地上に露出し、倒れかけたままのグランドマザー・ツリー。しかし、その「朽ちていく途中」の険しさこそが、この木の美しさを際立たせ、森の時間の厚みを静かに語っているようでした。
この森は「ブナの二次林」として知られ、かつて“母なる木（Mother Tree / グランドマザー・ツリー）”と呼ばれた巨木があった記録も残されています。ただし、「グランドマザー・ツリー」という名称が公式に定められているわけではないようです。
秋の森を歩くと、足元の落ち葉を踏む音や風に揺れる葉のざわめきが、一層生き生きと感じられます。そして、このあたりは山深く、最近は熊の出没も報告されています。森の静けさに包まれながらも、少し背筋がピンと伸びるような緊張感と、冒険心が同時に湧き上がる・・そんなワクワクとドキドキが入り混じった時間です。
春に比べ、「命のピーク」を過ぎたグランドマザー・ツリーの姿は、むしろ「次へつながる何か」を想像させます。倒れた幹を苔が覆い、落ち葉が静かにその上を流れていく。その流れからは、終わりではなく森の豊かな循環が見えてきました。
もしよければ、この森の奥へ少し足を進めてみてください。熊に注意しながらも、風に揺れる葉のざわめき、落ち葉のささやき、そしてグランドマザー・ツリーがそこに「いた」ことの証を感じられるはずです。写真を通して、その一瞬を切り取ることができたことに、深く感謝しています。

八幡平市 安比高原 ― グランドマザー・ツリー

八幡平市 安比高原 ― グランドマザー・ツリー

八幡平市 安比高原 ― グランドマザー・ツリー